建築家のニルス・ストリニング(1917-2006)とカイサ・ストリニング(1922-2017)夫妻は、スチールワイヤーを使った素朴なプレートラックを考案し、デザイナーとしてのキャリアをスタートさせました。そして1949年にそのスチールワイヤーを活用したシェルフをデザインし、大手出版社ボニエールのコンペティションで優勝しました。これがスカンジナビアデザインの名作String®の誕生ストーリーです。数年後の1954年、String®はミラノ・トリエンナーレで金賞を受賞し、それらは二人にとって初めての国際的なデザイン賞となりました。最近では2020年にString®が日本の「ロングライフデザイン賞」を受賞しています。ニルス・ストリニングは2006年に89歳で亡くなるまで働き続けました。2005年にString Furnitureから発売されたString® Pocketはニルスの生前最後のデザインとなりました。


The design couple behind String® - a shelf that can be endlessly reinvented

ニルス・ストリニングは建築家であり、発明家でもありました。ニルスには人々のニーズを見極める目と、問題解決のための想像力がありました。他のデザイナーが気づかないような日常生活の煩わしさは、ニルスにとって魅力的な課題でした。ニルスはせっかちな性格であった反面、カイサはアイデアを深く検討し、改良し、丁寧に設計図に描き込むような落ち着いた人柄でした。そのためニルスはパートナーであり妻でもあるカイサがいなければ、多くのプロジェクトを実現することが出来なかったと言えます。カイサは決して夫の補佐的役割というわけではなかったのです。ストリニング夫妻はそのキャリアを通して、プレートラック、ワイヤートレー、ゴミ袋ホルダーなど、生活をより快適にし、整理整頓できるような、実用的なものをデザインしていきました。「フォルムは常に機能を追求すべきである」という信念があったからこそ、今日、彼らの作品の多くがアイコニックであると考えられているのです。

1949年、ボニエールがブックシェルフのデザインコンペ実施を発表したとき、ニルス・ストリニングの頭の中には、すでにString®が生まれ始めていました。コンペのルールでは、新しいブックシェルフは手頃な価格で、配送や組み立てが簡単であることが求められていました。それは明らかにスウェーデンの多くの家庭に適したものでした。このコンペはニルスとカイサにクリエイティブな刺激を与えました。審査の基準だけでなく、さらに厳しい自分たちの基準を満たすために、コンペに応募する前からシェルフのデザインに微調整を加えていきました。結果、二人のシェルフは金賞を受賞し、その後瞬く間に成功を収めました。並行して、ストリニング夫妻はこのアイデアを発展させ続け、やがてString®は機能性やアクセサリーが備わった完成されたシステム家具へと成長していきました。70年以上経った今日も、String®はスウェーデンで最も売れ、最も愛されているデザインの一つとされ、国際的にも高く評価されています。

String®の生産が停止していた時期を経て、ストリニング夫妻は新たに立ち上がった会社String Furnitureに製造権を売却しました。そしてString®は再び生産され開発が続けられるようになり、これまで以上に多くのパーツで構成されるようになりました。そのためリビング、キッチン、バスルームなど、様々な空間に合わせて自由に組み合わせることができ、学生アパートであっても大邸宅であっても同じように活用することが可能です。色や素材は多彩に選べ、毎年新しいパーツが追加されるため、その組み合わせは年々無限に増えています。最近ではString® Systemに屋外で使用することができるガルバナイズド製のパーツも加わりました。とは言えString® Systemのモジュールサイズは1949年から変わらないため、String®のヴィンテージ品も現行品にフィットさせることができます。あらゆるコンビネーションが可能なため、様々なアイデアを遊び心を持ちながら無限に試すことができるのです。中古市場では製造年、カラー、素材に関わらず、String®は常に人気だと言われています。

String®は家族とともに成長すると考えられています。例えばString®のコンパクトモデルString® Pocketを、小さなお子様のはじめての部屋に購入するとしましょう。その後、子供の成長に合わせてString® Pocketを増やしたり組み合わせを変えたりして、最終的に子供が独立し新しい家に移るときもString® Pocketとともに引っ越すことができるのです。String®は今もスウェーデンで製造されており、高い品質基準と持続可能性の要件に準拠しています。2006年にニルスが亡くなるまで、ストリニング夫妻は新しい家具をデザインし続けていました。しかしそれらのデザインの多くは大きな成功を収めてはいたものの、String®ほど評価されることはありませんでした。そのためニルスは愛情を込めてString®を「呪われた棚」と呼んでいたようです。それはまるで自分の分身のような存在が大成功したことに、少し嫉妬しているかのようだったと言います。